デザインの余白

グラフィックデザイナーのひとりごと。デザインのこと、京都のこと、そして気になること。

モノのチカラ

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トップの写真、きれいでしょ?
これが何か分かりますか?


「手綱形」と呼ばれる代表的な煙管(きせる)です。
ぐるぐると巻かれたような螺旋状のシルエットで、煙が美しく出るように内部も設計された純銀製の煙管だそうです。もちろん一点ものの手作りです。

この煙管は、天保九年(1838年)創業の錫師、銀と錫の専門店「清課堂」さんにパンフレット制作を依頼された際に撮影したもの中のひとつです。作品ではなく、敢えて商品と呼びます。清課堂さんの作られるものは飾りや鑑賞用のものではなく、実際に使うことができるものだからです。しかし、作品と言っても良い美しさがあります。

お店の紹介や煙管の専門的なことは、清課堂さんのホームページをご覧頂きたいのですが、今日は撮影するモノとデザインについて少しお話します。

 



撮影での想定内と想定外、サムネイルの意味

カタログやホームページなどをデザインするときは、やはりビジュアルが良いに越したことはありません。僕はディレクターでもあるので、まずは依頼されたツールに合わせた全体の構成を考えます。

例えばカタログの場合だと、掲載する商品を依頼者(クライアント)から預かります(僕が商品を選ぶ場合もあります)。そして、それぞれの商品について、機能や特徴などをよく聞きます。その上で、機能訴求の仕方などを考慮してページの構成やレイアウトを決めていきます。ここでサムネイルを書きまくり、悩みまくるのです。(サムネイルって、何?な方は、↓をご覧ください)


かなりの時間を使い納得できる構成、デザインが組み上がるとクライアントに説明、提案して了承をいただき、次にカメラマンとの打合せに入ります。

サムネイルを基に商品の撮影をするのですが、実際にライティングして構図を決めようとすると、その商品を見て描いたはずのサムネイルとは「なんか違う」ことがあります。

「なんか違う」というのは、ディレクターの想像を「なんか超える」場合なんですが、それには...

(1)想定よりも弱い、何かが足りない
(2)想定よりも良い

どちらも実はほとんどの場合、商品を見た瞬間にデザイナーには答えが分かっていたりします。その上でサムネイルを描いているのです。先ほどの「サムネイルの悩み」は、ほとんどがこの部分にあります。しかし、(1)と(2)では悩みの質と方向性が異なりますが...


(1)の場合は、商品単体では「もたない」ので、何かを付加する足し算の方向で考えます。それはグラフィックによる処理だったり、撮影時の小道具だったりします

(2)の場合は、そのモノ(商品)自体がビジュアル的でフォトジェニックなので、引き算する方向というよりは「何も足さない、何も引かない」ための一点を探ることになります。




勘と現場主義

さて、ここからが楽しい時間の始まりです。

僕は最初、カメラマンに商品を預けて任せます。一応、サムネイルに基づいて撮りたいカットや必要な写真について説明をしますが、それは外してはいけない企画(デザイン・構成)の芯がブレないようにメージを共有するためです。

で、撮影が始まると優れたカメラマンはピンスポットでそのモノ(商品)の一番良いところを見つけるのです。モノでもモデルでも同じです。ファインダーを覗くと何か見える世界が違うのかも知れません。

テストを撮ってもらったら細部を検討して、その写真が良いと判断すればサムネイルで想定していたカットはあっさり捨てます。そして、構成自体を軌道修正してしまいます。僕の場合はですが...

勘や経験もかなりの要素となっていますが、このようにすることがそのモノ(商品)が一番よい状態で見えること(美しいビジュアルに)になると思います。




デザインしないというデザイン

トップの写真はその最たるものなのですが、この煙管(きせる)にはモノとしての美しさと存在感があります。僕はこれを「モノにチカラがある」と言っています。

「モノのチカラ」とは単なる造形美だけではない、そのモノが発する存在感やオーラのことで、作る人の思いや技が優れているもの程、この「モノの力」は強いように思います。そして、それが強いほどデザイナーもカメラマンも撮影が楽しくなります。決して楽にはなりません。そのモノが一番良く見える一点を探し、それが多くの人に伝わるようにデザインしなくてはならないからです。

そう、カメラマンもデザイナーもモノに試されているのです。もっと言うと、それを作った人に試されることになるのです。

強いもの、美しいもの、素晴らしいもの... 本物は余計なデザインを嫌うと思います。なので僕は「デザインしないこと」もデザインという変な考え方を持っています。もちろんモノや状況によりますが。。




前からこの「モノのチカラ」について書きたかったのですが、ビジュアルがある方が分かりやすいと思い、今回 錫師 清課堂 七代目当主 山中源兵衛 氏とカメラマン 松井学 氏の許可を得て、このブログを書きました。このテーマはデザイナーの醍醐味や面白さ、不思議な部分でもあるので、また書きたいと思います。


この清課堂さんには本物が溢れています。お店で商品の数々を眺めるだけでも時間を忘れそうになります。





因みに、このカタログ(正確にはコンセプトブック)は、gridGraphicのページで少しご紹介しています。ぜひご覧ください。

写真:Studio MacCa  松井学
商品:純銀手綱形煙管清課堂

創作煙管については、清課堂さんのページをご覧ください。
本物は、超カッコいいです。


 

がんこ煙管 〔取次屋栄三〕 (祥伝社文庫)

がんこ煙管 〔取次屋栄三〕 (祥伝社文庫)