デザインの余白

グラフィックデザイナーのひとりごと。デザインのこと、京都のこと、そして気になること。

かみとロック  和のデザインってなんだろうかみたいなこと

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和のデザイン


僕のデザインについてよく言われることがあります。


「なんとなく和っぽいですね」と。


特に「和」や「日本」を意識している訳ではないんだけど、デザインをするときに「間」や「白場」を大切にしているのは確かです。どちらかというと、目には見えないような「遊び(余裕)」や「余白」といったことを意識しています。

まったくの白いスペース(白紙)のなかに、たったの二文字を配置する場合。その文字の書体や大きさ、色など様々な要素を考えながらも、その文字を置く場所と言うのは不思議と決まってしまいます。


そこよりも少し上でも下でも右でも左でもなく、ただそこに。

文字が縦組なのか横組なのかは、それが複数ページなのか、1枚で完成するのかで変わる場合もありますが、基本的には配置する場所と同じでデザインするときに自然に決まります。

その絶妙な1点を探すのがデザインだと僕は思っています。

どんなに短いキャッチフレーズでも、どんなに長いテキストでも、写真でもイラストでも、それらを支えるデザイン的支点があり、その1点で保たれたバランスが全体に緊張感を生み出しているように思います。この緊張感と空間、遊びのようなものが何となく「和」を感じさせるのかも知れません。




ゆらぎ


最近はLEDの照明が主流になりつつあるということで、ある大手電機メーカーの方からとても面白いことをお聞きしたことがあります。LEDの照明器具は対応年数も長く、既存の蛍光灯や白熱電球などよりも明るいんだけど何かが足りないと。。光量的には十分なのに、みな明るさを感じないということです。

確かに僕の自宅もLEDに付け替えた部屋があるんですが、なんとなく前よりも暗くなった気がしていました。

電球や蛍光灯は、肉眼では認識できないけれど波を打つように光っているそうで、逆にLEDはその波がなく限りなくストレートだから明るいそうです。これは数値的にも実証されていることだそうです。


ではなぜ人は明るく感じないのか?
その答えが「ゆらぎ」だったのです。


肉眼では見えない電球や蛍光灯の光の波長、電気的にはノイズになるそうなのですが、明るくするためには非効率なはずのノイズによって人は「あたたかさ」や「あかるさ」を感じているそうです。面白いですね。




日本独自の発想


例えば、部屋の中に入られたくないことがあったとします。貴重品が保管されていたりする場合です。

欧米ではおそらく頑丈な鍵を掛けたり、鉄格子を設置したり、「立入禁止」などの札が立てられることと思います。そして、鍵などはより大きく、より強力に進化して、今では電子ロックや角膜認証などで「絶対侵入不可能」なモノを作っています。

現代では日本も同じなのすが、今も古来からのやり方が生きている場合があります。神社やお寺などの扉に張られた「封」がそうです。素材は「和紙」で出来ているので、破ろうと思えば誰でも簡単にその紙を千切ることができ、そのまま中に侵入することも可能です。


奈良東大寺正倉院は、扉に菊の御紋が刷られた紙で封印がされているそうです。この封は東大寺の偉いお坊さんでも、時の総理大臣でも、天皇陛下のお許しがない限りは開けることは叶いません。これは物理的に開けられるかどうかではなく、開けてはならないものとして人々が納得しているというのがポイントであり、その中のモノを大切に敬うという気持ちの現われなのです。


欧米の「開けられない、破られない鍵(ロック)」の発想ではなく、日本人は「開けようとする人の心に鍵(封)」をしたのですね。

これは鍵や封だけの話ではなく、防音設備もなく間仕切りもない部屋に衝立(ついたて)を立てることで空間を仕切ったり、紙と木で出来た障子(しょうじ)や襖(ふすま)を使うことでも見られると思います。物音や会話を物理的に「聞こえないよう」にするのではなく、思いやる気持ちで「聞こえないこと」として静かに立ち居振る舞う。商家の暖簾一枚で内と外を区別する世界観などもこの延長です。




当然、隣の部屋の会話や物音は聞こえないほうが良いし、こちらの音も聞こえて欲しくはないんだけれど、その気遣いというか、そういった精神性が日本独自の所作や間(ま)、ひいては日本らしい意匠、デザインになっていると思います。



因みにトップの写真は僕の生まれ育った場所で、幼いころ毎日遊んでいた伏見稲荷大社の千本鳥居です。今では観光客が多くて、ここで写真を撮るのが難しくなって来ています。。 




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