デザインの余白

グラフィックデザイナーのひとりごと。デザインのこと、京都のこと、そして気になること。

デザイナーがやるべきこと

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「入稿規定に合ってない部分があるから、修正して再入稿してください」ってことがたまにあります。新聞社や雑誌社が決めた「入稿ガイダンス」に従っていないからダメですということなんだけど、その規定については色々思うことがあるのでちょっと書いておきます。


自分で自分の首を絞めた印刷業界

そもそも印刷業界にMacが導入されて、「DTP」という言葉がもてはやされた頃は、これからは時間もコストも削減できて、早くて安くて良いものができると魔法のようなことを印刷会社自らが喜び勇んで普及させていた気がします。それはシステムや機械を導入できる大手だけなんだけれども、その大手の普及活動のお陰で、身近にたくさんあった「町の印刷屋さん」はどんどんなくなっていきました。コンビニや大手スーパーの進出で商店街がなくなったのと同じ構図。


ついには製版とか写植とががほとんど必要なくなったというか淘汰された(全部ではない)時に、なぜだかデザイナーがその部分をやることになりました。Adobe製品やMacを使って。厳密に言うと、例えばカタログをデザインする際、全体のデザインは勿論ですが、コピー(文章)部分はデザイナーがフォントを選んでテキストを打ち込み、レイアウトをしていきます。昔であれば「写植」を指定して発注し、制作費用にその「写植代」として文字を打つ作業と印画紙などの物理的な費用を計上できましたが、デザイナーが文字を打つようになってからは、その作業費用は請求できなくなり、全体のデザイン費に組み込むことが多くなりました。というか「写植代」のようなものは請求できなくなりました。そして、その原資となるフォント自体も「モリサワ」を代表とするフォントメーカーからデザイナー(デザイン事務所・企業)が購入することになります。このフォントの費用も基本的には請求できないのですが、これはグラフィックデザインを仕事にする上での必需品なので、鉛筆やカッター、定規と言った基本装備品のひとつと考えこともできます。そして、デザイナーは「デザイン」の他に文字詰めなどを行うスキルを身につけることが必要になりました。ま、写植を知ってるデザイナーは、文字詰めにも拘るので自分で打つ方が良かったりします。


デザイナーが動きにくくなった?

写植を発注する代わりにフォントを選んで、デザイナーが文字を打つのはもう常識化してしまいましたが、写植を指定して印画紙が上がってくるのを待つという「タイムラグ」までが無くなった分、「さっき修正原稿を送ったんですが、届いてますか?」ということイコール「直ぐに打ち直して修正してください」になった事を意味します。昔はこの「タイムラグ」の間に打ち合わせをしたり、別の原稿を仕上げたりできたのですが、今やひとつの案件を片付けないと次に進めないという状況になる可能性が高まったとも言えます。時間的に短縮できて良さそうに思えますが、実はこのタイムラグを利用することで、ひとつしかできなかった仕事が複数同時に進行できるということでもあったのです。

確かにデザイナーが自ら文字(写植)を打つことによって、デザインしながらレイアウトやフォントの決定、変更などが縦横無尽にできるようになったのは喜ばしいことですが、逆に言うと他人に作業を発注しない分、いつまでも決められない可能性もあるということでもあります。締め切りまでの時間があれば、いくらでも検討を繰り返すことができるということは良いことではありますが、見切りというか「えいっ!」と決めてしまう勢いが必要なときも実はたくさんあると僕は考えています。

 

 ひとつ減って、ひとつ増える。フリーランスになりやすい時代


写植屋さんとか製版屋さんとか、ひとつの職がなくなるということは、誰かがその部分を担うということで、その作業や部分がすっぽり無くなったのなら、簡略化して「コストも時間も削減できた」ことになるんだけど、実際は誰かがその無くなった時間とコストを負担しているに過ぎなかったりします。そして別の誰かがそれらを担うことで、より良くなったり発展することに繋がればそれが正解で、必然だったのかも知れません。結果的にデザイナーの守備範囲は増えて、準備・習得しなければならないものも若干増えましたが、デザイナーが独立してフリーランスになることを考えると、少ない投資で仕事を始められるというメリットも確かにあります。


ということで、いろいろ書いてきましたが、勝手に規定(ルール)を作ってそれに合わないものは受け付けませんよってことは、どんな世界・業界にもあるのですが、その「規定」とやらもその業界や大きな企業などの都合で、いかようにも変わります。そのたびに僕たちは新しい基準に合わせることを強いられます。それがフリーランスとしての企業努力なのかも知れません。っていうか、「最新の規定を読んでください」とか「最新版のガイダンスをダウンロ土して...」と言うのなら、そっち側も最新のOSやアプリも最新のバージョンに対応してから言っていただきたいものです。いまだに「データはAdobe Illustrator CS6まで」とかありえないし(笑