デザインの余白

グラフィックデザイナーのひとりごと。デザインのこと、京都のこと、そして気になること。

彫刻刀とカッターナイフ 二十歳のリアル

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今日は、1月12日「成人の日」。
新成人が今年は126万人で21年ぶりに増加したのだとか。今日20歳を迎える多くの若者に幸多いことを願います。おめでとうございます。


さて、調べると2000年からハッピーマンデー制度の導入で「成人の日」が1月の第2月曜日になったそうですが、僕が成人式を迎えた時は、1月15日。今から27年も前の話で、四半世紀以上も前になります。。




持つことが叶わなかった彫刻刀


当時20歳の僕は「レイ・デザイン研究所」に通う学生でした。
18歳で高校を卒業して大学進学も考えたんだけど、父親の居ない家庭で目標もなく何となく進学することが「人生の執行猶予」みたいで疑問を感じたこともあり、元々仏像彫刻に引かれるものがあったので、その時は仏師(仏像彫師)になろうと決めていました。

で、高校3年生の時に父の墓があるお寺のご住職にご紹介いただき、京都で高名な仏師の先生のところへ弟子入りをお願いしたのです。なんの予備知識もなく、ただ仏像を彫ってみたいという浅い考えだけで。無謀にも程があり、若いとは言え大変失礼なことだったと思います。

結果的には、「君は向いてないから、やめなさい」と先生に言われて引き下がりましたが、今思えばそのくらいのことで諦めるようではとてもモノにならないと考えての試験だったのかも知れません。が、呑気な僕はそんなことに気づかず、その後一冊数万円もするような仏像の図録などを母親に買ってもらい(この時点で甘ちゃんだけど)、ほんの少し真剣に仏像のことを勉強したつもりになって、今度は京都国立博物館内にある「美術院(国宝修理所)」を受験することになります。

全国の美大、芸大を卒業した本気の人たちに混ざって、普通科の高卒がその難関に挑んみました。確か当時は何年も合格者が出ていなかったと思いますが...

当然の如く、不合格。

筆記試験(仏像彫刻・国宝・需要文化財に関する基礎知識)と実技(デッサン:僕の時は千手観音坐像)、そして面接でした。僕も絵は得意で、自分では相当に上手いと思っていましたが、美大・芸大卒の美術院を受けようとする方々のデッサンは次元が違いました。僕なんかは千手観音の全体像を時間内に描き切ることすらできず、気持ちはベコベコに凹みました。


とあらゆる部分で完敗、傷心のまま町を歩いているとき、ひとつの案内を見かけたのです。それによって、僕は全く違う世界へ踏み出す事になりました。。





カッターナイフの世界へ


「フランス留学制度もあります」

案内に書かれたこのキャッチフレーズに惹かれて、デザイン専門学校の門を叩いてしまいました。結局、僕が見たのはかなり古い学校案内だったようで、海外留学はできなかったのですが...(笑


こうして、僕はデザインの世界へと踏み込むことになりました。この時は四半世紀以上もデザインを続けるなんて夢にも思ってなかったんだけども。。

一日も早く働いて、自立できるようになりたい一心だった僕は、授業料を捻出するために毎日アルバイトをしていたのですが、それでも暇があったら動物園で絵を描いていました。主にクロッキー。短時間で特徴を捉えて描いてしまうというのを繰り返し、繰り返し。テナガザルがお気に入りでした。

その甲斐があったのか、今でもサムネイルを描くのが大好きで得意なことの一つになっています。


と、そんなこんなでデザイナーの一歩を踏み出すのですが、この専門学校に通う時に僕はすでに30歳までに独立して事務所を持つことを決め、デザイナーになるだけでなく、一廉の者になり自分の事務所を持つことをイメージしていました。





武者修行と道場破り


デザイナーで独立すると決めていた僕は、専門学校在学中に有名であろうと思われる事務所の中から「一番厳しい」と噂の会社に行こうと考え、インターンシップ制度を使って潜り込みました。そして、インターン期間後も夏休みや冬休みになると「バイト代は要りませんのでデザインを教えてください」と言っては、その会社に通い続けました。他にも大きなデザイン事務所など、見学と称しては訪ね歩いていました。

大勢のデザイナーである大先輩の仕事を見ては感心したり、納得したり、色々質問したり、生意気なことを言ったりしながら毎日がワクワクしていたのを覚えています。自分の中では武者修行を武士で、他流試合を挑む道場破り的な感覚もありました。


当時はMacもなく、まさに「手で仕事をする」時代。先輩たちも丁寧に手とり足取り教えてくれるようなことはなく、「見て盗め」的な空気がありました。デザイナー=クリエーターというよりも、職人的な色が強い時代でした。

カッターナイフと三角定規、ロットリングとケント紙。ラバーセメント、紙焼き、写植。。今では殆ど見掛けなくなったモノたち。(僕の事務所では、写植と紙焼き以外は現役ですがw)


と、まだまだ話は尽きないのですが、二十歳のころの僕はこんなんだったなぁというお話でした。また機会があれば、駆け出しデザイナーの厳しい毎日なんかも描いてみたいと思います。




※トップの写真は現在デザインをする時の必需品。マウス。こいつで微妙な線を描くことになるなんて、20歳の僕は夢にも思いませんでした。


 

 
 ↓ 最近の彫刻刀はカラフルですね〜

マルイチ彫刻刀・SX 全鋼製5本組

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NT デザインナイフ D?400P

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